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コラム

2022.04.10
金融機関対応(資金繰り)
1. 資金繰り改善対策
1-1. 資金繰り改善の第一歩は、最低限の利益確保から

1.緊急対応策として固定費・人件費を削減する

(1)広告宣伝費のコストパフォーマンスを検討する

宣伝費は、コストパフォーマンスを充分考えた上で支出されるべきです。むやみやたらと宣伝費を使った時代は終わりました。また、コストパフォーマンスを無視した、イメージ広告に支出するケースもありますが当面止めるべきです。

またホームページについては、魅力あるものをつくり、検索エンジンへの登録や相互リンクの実施など地道な積み上げも欠かせないものになっています。

【広告宣伝費削減の具体例】

  • 安易に割引券発行をしない
  • 無料のパブリシティへの記事掲載

(2)接待・交際費は管理表で絞り込む

接待・交際費も広告宣伝費と同様に費用対効果を充分考えて支出すべき費用です。交際費管理表を作成し、絞り込むことが必要です。この場合にも、ベースは年単位で考えるが月単位に落とし込んで管理します。

また1人当たり5,000円以下の交際費の全額損金算入の節税対策を効率的に利用すべきです。

【接待・交際費削減の具体例】

  • 前期実績の中で売上貢献度合いが最も低く見込みが無い取引先は今期削減
  • 事前申請制度による無駄使いの監視

(3)営業部門にコスト削減を浸透させる

営業部門が新規顧客開拓のためのコストは必要であり、経費削減を上から押し付けると、新規顧客開拓が思うように進まないこともあり得ます。ここでも、費用対効果の意識を浸透させることが非常に重要になります。

また、費用の削減もさることながら、時間というコストに対する意識を高めさせることが重要です。一度で済む納品を数回に分けて納品することの無駄や、やり直し、クレーム発生といったことにもコストがかかることを認識させなければなりません。

【コスト削減意識を浸透させるための具体例】

  • 営業部門に対する社内研修(利益の仕組みなど)
  • 業務管理、進捗管理、行動管理の徹底

(4)その他経費の削減

例えばインターネットを活用すると、使用量に関わらず定額を支払う内容の契約であれば、使えば使うほど相対的にコストが下がります。また、インターネットを利用したIP電話の利用により、電話料の削減を簡単に実現することができます。

また、気を付けたいのが、教育・研修費です。将来に向けての投資なので、単純に削減することはできません。そのため、慎重にその内容を検討し削減をしても良いものか、削減してはいけないものなのかを、経営方針を考慮しながら進めていかなければなりません。近年では、社員教育・研修には助成金や税額控除などが国の政策上用意されているので、利用できるものは積極的に利用すべきです。

水道光熱費の削減は、昔から「経費削減」というと必ず挙げられる代表的項目です。しかしその意義は、「経費削減」の効果そのものより、全社で取り組むにあたって共通認識とする取組み項目として分かりやすく、活動する実感が湧くものであるからです。つまり、全社員の共通の認識から「節約」に対する意識を醸成できるからなのです。

ただし、ここで気をつけなければならないのは、徹底することの必要性を幹部が認識しなければ意味を持たないということです。「自分ひとりくらいはやらなくても良い」という意識は簡単に蔓延しますし、幹部ができないものを部下がやるはずがありません。

同様のことが事務費・消耗品費の削減にも言えます。これも、公共料金と並んで真っ先に項目として挙げられるところです。
また、人件費の削減に結びつく場合もあるので、業務の見直しは重要だといえます。その中から、削減するものや購入を中止するもの等が明らかになります。

【その他経費削減の具体例】

  • 高速道路利用規定を整備し利用条件を設定
    (本社から50Km圏内への移動は高速道路使用禁止など)
  • 社用車をリース車や自家用車借上げ方式へ切り替え
  • 教育研修費の助成金活用
  • ミスコピーの裏紙活用
  • 制服の廃止
  • 会社名義契約の携帯電話を廃止し、個人への一定額料金補助方式へ変更

(5)人件費の削減

人件費は、経営計画の中において、予め「人件費削減計画」として織り込みます。次に人件費削減の金額ベースから、削減人数を算出します。さらに、それを部門別、階層別に落とし込み、削減計画をより具体化します。

次に、人材検討表を作成して個別に評価します。つまり、貢献度や今後の成長度などを評価し、総合的に判断して今後会社に必要な人材かどうかを検討するのです。その後、個別に告知を行い、折衝を進めることになりますが、根気よく退職の勧奨説得を続けることが必要です。このように、人材のバランスを見ながら組織を見直すことになります。

ここで、注意をしなければならないのは、退職を勧奨する場合の条件として、退職金の割増を提示するのが一般的であるため、原資の確保が必要になることです。また、企業として、解雇対象者の再就職の斡旋努力も必要です。

「希望退職」を安易に募集する会社がありますが、会社にとって必要な人材までもが退職を希望する可能性が十分あり、会社において人件費の削減以上の損失となる可能性があるので、実施に当たっては熟考すべきです。

【人件費削減の具体例】

  • 従来業務を見直し、非正社員化をする
    (派遣社員、契約社員、パート・アルバイト、業務委託など
  • IT化による人員削減(会計ソフト導入による事務員削減など)
  • 随時生産性を見直し、効率的なシフト管理の推進
  • 計画的な行動管理による時間外手当の削減

 

2.変動費の改善をする

(1)直接材料費を下げる

①原材料の調達面におけるコストダウン

イ)仕入れルートを考える
例えば、金属材料は、一般に問屋、商社等から購入します。それも元卸、一次卸、二次卸等と多段階になっており、それぞれで値段が異なります。自動車大手企業のように、メーカー直接仕入とはいかないまでも、なるべくメーカーに近い段階の商社から買うのがベストですが、大手卸では少量調達は相手にされません。したがって、共同仕入等の工夫が必要です。
また、取引業者が多くなりすぎている場合は、業者を絞り込むことにより業者側は取引量のメリットを享受できることから、コストダウンができることがあります。これは日産自動車の再建において実行された方法です。

ロ)製造業の場合はより良い材質や規格への転換を考える
アルミは高いと思っていたが、いつの間にか安くなっていた、という場合があります。
このような場合、より安い材質への転換を考えなければなりませんが、新しい材質の加工費が高くならないかどうかを考えて実施する必要があります。
例えば、低尺の材料を購入し、自社で必要な寸法に裁断している場合、はじめから必要寸法に裁断されているものを購入した方が安くなる場合があります。
コストダウンは、製品1個あたりの総原価が対象であることを忘れてはいけません。

②原材料のムダを減らす

イ)歩留まりを改善する
原材料を使用(加工)する場合、発生する「材料のムダ」を少なくすることを考えなければなりません。つまり、「歩留まり」の問題です。
せっかく安く買った原材料も、歩留まりが悪いと、製品1個当たりの材料費が高くなってしまいます。歩留まりの改善には、「材料どり」と「加工ロス」について考えなければなりません。

③購入備品の価額を引き下げる

イ)価額交渉を有利にする背景
価額交渉を有利にする背景には、「相互依存の背景」、「競争の背景」、「内製化の背景」の3つがあります。
「相互依存の背景」とは、お互いに供給・受給関係が崩れると困る、という背景です。系列化もそうですが、一般的には「集中発注方式」です。
例えば、電気部品であれば、電気部品すべてを特定の供給者に発注する方式です。万が一の場合、供給・需給関係が崩れると受給側も困惑しますが、供給側も売上の「束」がなくなることを心配しなければなりません。そのような背景から、VAなど徹底的な原価低減活動を協働で行うのです。最も穏やかで望ましい背景といえます。
これとは逆に「競争の背景」は、常に競争状態にある背景の下で価額交渉をする方式です。一般に「ニ社制」と呼ばれていますが、主力部品のすべてをお互いに競合している二社に発注するのです。通常、発注比率は7対3が良いとされています。「言うことを聞かないと、発注比率を変更しますよ」と無言の圧力をかけて交渉するのです。
また「内製化の背景」とは、自社で代替品を生産できる体制を構築することです。設備導入までは行いませんが、試作品を完成させる等いつでも必要に応じて生産開始できるという背景を作るのです。この方法は、万一の場合には自社生産に踏み切れば良いので、「強い交渉」が可能になります。

ロ)幅広い調達情報を収集する
資材担当者は、取引している相手先のみを訪問するのではなく、機会あるごとに取引先の同業他社ともコンタクトをとり、安い代替品の調査など関連情報を集めることが必要です。同業他社にとどまらず、他の業界についても関連情報を幅広く収集するよう心がけることです。
さらには、海外の調達市場の探索も必要です。具体的にコストダウンに繋がりそうな情報はサンプルチェックしておきましょう。

(2)外注化してコストダウンを図る

①外注を利用する理由
外注を利用してコストダウンを図るポイントは、以下のとおりです。

イ)操業調整
毎月の販売数量は、大小ありながら変動します。小幅な変動に対しては、在庫で操業調整しますが、これで調整しきれないときは生産調整を実施します。
しかし、増産の際に設備や人員の増強をすると、減産となったときに余剰となり、設備費や直接労務費のムダが発生します。したがって、自然増・自然減の生産調整は外注したり、外注率を引き上げたりするのが操業変動によるムダを減らす方法です。
業績悪化企業であっても、部門損益という観点から見ていくと、全ての部門が悪いことは稀です。よって、部門別損益分析を行い、各部門について検討を行うことが必要です。収益貢献度を明確にすることによって、今後の対策をどのように打つべきかが明らかになります。特に赤字の部門については、他部門との関係を考慮する必要がありますが、即時撤退することが収益構造を飛躍的に改善させる場合もあります。
また、赤字部門からの撤退により、コア事業に経営資源を集中させることが可能になるので、コア事業の収益力がさらに高まります。

(3)外注単価を引き下げる

①外注先を選定する
いくら価格が安くても、品質や納期に問題があるようでは、製品1個あたり総原価を安くすることに寄与しません。Q(品質)・C(コスト)・D(納期)の視点から外注先を選定すべきです。
また、選定過程で提示される見積書の内訳には細かいチェックを要しませんが、外注先として1~2社に絞り込んでから提示してもらう見積書は、その内訳と内容を精査する必要があります。

②外注先の見積りをチェックする
一般に、多くの外注工場は、中小・零細企業です。原価計算や見積り計算も不合理な点が多いことも珍しくありません。
したがって、原材料ベース(単位あたり仕入れ価格)がいくらか、どのような機械で加工するのか、その場合のチャージレート(加工時間当たりの総合賃率)は適正か等をチェックできる付属資料を見積書に添付してもらいます。
この結果、割高になっているコストを修正してもらうのは当然ですが、逆に低すぎる金額となっている場合にも修正が必要です。安く間違ったままにしておくと、生産開始後に「赤字なので返上したい」と一方的に注文返上されかねません。
社内加工のチェックと同じスタンスで臨むのが、最終的には良い結果をもたらします。

③外注指導が重要
外注工場は、社内工程に比較して様々な点でムダが多いのが一般的です。積極的に厳しく改善指導をして、まず外注工場の採算性を良くした上で、値下げという形で還元してもらう体制が良いといえます。
「ムチ」だけではコストダウンの成果は上がりません。外注先との「WIN-WIN」の関係を築くことが重要です。

(4)仕入の適正化

商品仕入は、売上の季節変動に伴う在庫増減を考慮した上で、仕入予算を立てる必要があります。
繁忙期には在庫を増加させ販売ロスを減らし、閑散期には在庫を削減する予算とすることが必要です。
在庫増減を考慮した仕入予算は、

 仕入予算 = 売上原価予算 ± 在庫増減

で計算します。これによって自動的に在庫予算も設定されることになります。

なお、季節変動が少ない企業の場合は、在庫増減を考慮しなくても差し支えありません。
また、企業によっては仕入の際のルールが明確になっておらず、ベテラン営業マンが仕入を代行しているケースも少なくありません。

この場合は注意が必要で、営業マンは販売ロスを避けるためにできるだけ多くの在庫を持とうとします。また、まとめて買うと1個あたりの仕入単価が下がるからといって必要のないものまで仕入する傾向もあります。

適正期間で完売できるのであればそれも仕入戦略の一つとなりますが、1ヶ月で販売可能な量を考慮し、安く仕入れることでコストダウンできる金額と、在庫として抱えることによって発生するコストを比較して判断しなければなりません。
また、すぐ販売できない在庫を持つということは、それだけ資金を必要としますので、資金繰りにも影響を与えますので注意が必要です。

(5)値引き・返品の抑制

値引き・返品を抑制することは、適正売価の維持につながり限界利益を向上させます。
値引きはそのまま利益の減少に直結します。例えば売上高経常利益率が2%であった場合、仮にすべての商品に2%の値引きを行なうと、利益はゼロになってしまいます。逆に固定費は変動しませんので、値引きが1ポイント減少すれば経常利益は1ポイント向上することになります。

値引きの抑制が限界利益に与える影響の大きさについては、全社に危機感を浸透させなければなりません。
また、返品については、商品が戻ってくるため、それが正規の値段で販売できれば値引きほどの影響はないものの、物流コストや在庫コストが余分にかかる結果となります。さらに、返品商品が当初の値段で販売できない場合が多いことを考慮すれば、値引きと同様に影響が大きくなると理解する必要があります。

いずれにしても、値引き・返品の現状を正しく把握した上で、改善策を明確にすることが重要です。
 

3.部門別損益の改善をする

(1)部門別業績管理を実施する

部門別業績管理とは、部門ごとに損益計算書を作成し業績を管理することをいいます。 業績を部門別に展開することにより、各部門の特徴や資金繰りの問題点を抽出することが出来ると同時に、それぞれに対応した改善策を行なうことが出来ます。 実務では、地域別、店舗別、サービス別、商品別、得意先別、担当者別といったように、さまざまな切り口で展開していく必要がありますが、ここでは、簡素化したデータを基に解説します。
 

【全社合計の損益計算書】   【部門別に展開した損益計算書】
科目 全社合計 右矢印 科目 第1事業部 第2事業部
売上 50,000千円 科目 30,000千円 20,000千円
変動費 15,000千円 変動費 7,000千円 8,000千円
限界利益 35,000千円 変動費 23,000千円 12,000千円
固定費 30,000千円 固定費 15,000千円 15,000千円
経常利益 5,000千円 経常利益 8,000千円 ▲3,000千円
限界利益率 70.0% 限界利益率 76.7% 60.0%

 
上記左側の図は、ある商品の販売を展開している会社の損益計算書です。
経常利益が5,000千円の黒字企業であることがわかります。

これを部門別に展開するとどうなるでしょうか?

第1事業部は、8,000千円の経常利益ですが、第2事業部は、3,000千円の赤字であることがわかります。よって資金繰り悪化の要因は、第2事業部にあることがわかります。
このように部門別業績管理を実施すると、全社合計では見えてこなかった、資金繰りの問題点が見えてきます。

(2)部門損益の見直しと不採算部門からの撤退

自社の資金繰り改善のためには、不採算部門、つまり資金繰り悪化の要因となっている部門から撤退することも方策のひとつです。業績が良くても悪くても、全ての部門が良いまたは悪いことは稀です。部門別業績管理で収益貢献度を明確にすることによって、今後の対策をどのように打つべきかが明らかになります。

特に不採算部門については、今後も継続するのであれば収益改善の対策はどうするのか、また他部門との関連性が薄いのであれば、撤退や事業部門の売却も検討すべきです。この結果、収益構造を飛躍的に改善できる場合があります。

【部門別業績管理で不採算部門を見極める】  
科目 第1事業部 第2事業部 部門別業績管理で不採算部門を見極める
売上 30,000千円 20,000千円
変動費 7,000千円 8,000千円
限界利益 23,000千円 12,000千円
固定費 15,000千円 15,000千円
経常利益 8,000千円 ▲3,000千円
限界利益率 76.7% 60.0%

 
(2)商品別に展開した場合の改善基準の策定

部門別業績を検討し、各部門の売上げに問題がある場合、商品別に展開することが必要となります。

【商品別に展開した分析】 (単位:千円)  
科目 商品A 商品B 商品C 商品D ・・・・・
売上 5,000 4,000 3,000 2,000
変動費 4,000 2,800 2,800 1,500
限界利益 1,000 1,200 200 500
限界利益率 20.0% 30.0% 6.7% 25.0%

 
上記の図の「商品C」においては要因分析と対策が必要です。

  1. 開発されて日が浅く、これから採算ベースに乗る商品
     ⇒ 黒字化の期限設定、もしも到達できなかった場合は撤退する
  2. 顧客ニーズがない不人気商品 ⇒ 商品の改良、撤退、売却
  3. 競合他社に負けているケース ⇒ 同 上

このような状態にある商品については、改善策と期限を設定の上、「継続するのか」あるいは「撤退するのか」を慎重に検討し、決断すべきです

1-2. 売掛債権、在庫にも徹底的にこだわる

1.売上債権の管理は非常に重要

(1)回収遅延をチェック

売上代金を確実に回収できなければ、売掛債権が現金化されないために、資金繰りに影響が生じます。また、売上を上げても相手先が倒産することになれば、資金繰りは一気に厳しくなります。
予防策としては、売掛金推移表の作成など数字の推移をチェックする方法があります。

【売掛債権管理表例】
得意先 前月残高 当月売上 現金回収 当月残高 滞留月数(ヶ月)
2,000 1,000 700 2,300 2.3
1,500 600 200 1,900 3.2
1,000 500 500 1,000 2.0
4,500 2,100 1,400 5,200 2.5

 
上記のような売掛債権管理表を作成すると、顧客別の売掛債権回収状況が一覧で確認することができます。
この例では、滞留平均月数が2.5ヶ月となっていますが、B社は3.2ヶ月と長くなっており、取引条件どおりに回収が行なわれているか、営業担当者による回収が確実に行なわれているかなどのチェックを行なう必要があります。

(2)回収条件の変化

得意先の業績チェックや与信管理は、企業としては重要な活動項目であり、例えば得意先から受取手形サイトの延長の申し入れがあった場合などは、民間調査機関による信用調査の活用や、営業担当者からの情報収集などを行う必要があります。ここで相手の業績悪化についての情報を得た場合には、早めに債権回収の手段をとらなければなりません。

一方、営業担当者に債権回収への意識が低いような場合には、請求書の送付遅れや、無理な回収条件で取引を行なってしまうことにより、債権回収が遅れる可能性もあります。したがって、営業担当者に対して、「回収なくして販売なし」「販売は回収を完了して終了するもの」という意識をもってもらうような研修、会議を行なう必要があります。

【回収までの流れ】
回収までの流れ
 

(3)回収管理を全社的に行う

売掛金の回収期間が長くなると、売掛金の残高が増加して資金繰りは悪化します。そこで、早期の回収を図るためには、売掛債権の回収管理を全社的に行うことが必要です。
併せて、取引先に対しては、次のような対策をとることが効果的です。

  1. 売掛金の回収期間の短縮化
    得意先に売上代金を従来より早目に支払ってもらうことを了承してもらうことは困難ですが、取引額を増やすなどの条件を提示することにより、交渉する余地はあります。
  2. 早期回収可能な取引先へ切り替える
    販売額の多い得意先には、不利な回収条件や、返品や値引きの要請が多く見られます。このような得意先は、取引量が多くても必ずしも良い得意先とは言えず、取引額を減らすなどして、他の回収条件の良い得意先へ切り替える等の思い切った見直しも必要です。
  3. 納品日の見直しによる早期回収
    売掛金の回収条件としては月末締め、翌月払いといったものが一般的であるため、納品日を月初でなく月末とすることによって、早期に回収する方法も考えられます。

【回収日の違いにより、回収期間がどれだけ延びるか】
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4月末納品で5月末回収の場合には回収期間が1ヶ月となりますが、例えば納品が1日だけ延び、5月1日に納品した場合には、回収は翌月の6月末となるため、回収期間が2ヶ月と長くなってしまいます。このようなケースでは、1ヶ月回収遅れてしまうことになり、資金繰りが忙しくなる要因になります。
したがって、納品が月末になるような努力や、得意先に対しても月末までに検収してもらうように交渉するなどの働きかけが必要です。

(4)売上増加との関連性

売上が増加する場合には、現金預金が減少するケースが多くなります。その要因は、売上が増えても現金回収でなければ、現金化されるまでに時間がかかるからです。この売上から回収までの期間が長ければ長いほど、資金繰りは忙しくなります。

一方で、売上に必要な原材料仕入などの支払において、これを現金払とした場合には売上代金回収との金額が開く一方であり、資金は不足します。
売上は仕入額より大きいため、通常は売上債権が買掛債務より大きくなります。売上を向上させるために、在庫を多く持つような場合にはこの差はさらに大きくなり、資金繰りは忙しくなります。
売上が大きくなると、「売掛金+受取手形+棚卸資産-買掛金-支払手形」で計算される金額も比例して大きくなります。

この金額は、企業活動にとって必要な資金であり、運転資金と呼ばれています。この運転資金を確保できる手元資金があれば資金繰りは回りますが、これが不足するような場合には、外部からの資金調達が必要となります。
売上を急速に伸ばしている企業は資金繰りが悪化する可能性もあり、さらに外部からの運転資金の調達ができないような場合には、「黒字倒産」を招く恐れもあります。
売上の伸びは、企業にとっては良い要因ではありますが、資金化できなければ経営に支障をきたしてしまいますので、資金繰りには十分な注意が必要です。

具体的には、予定資金繰り表で資金計画を立て、資金繰りを計画的に行なうことが求められます。

【資金繰り予定表作成手順】
資金繰り予定表作成手順

売上金額の予想値を月ごとに記入していきます。
予想できない部分は、月の構成比率などを参考にした見込み数値とします。

売上入金が確定したら、原価の確定を行います。
予定原価率に基づき、売上入金額に原価率を掛けて原価支払額を確定します。

変動費は、売上に対する変動比率を掛けて算出します。
固定費は、毎月一定額であるケースが多く、その額を算出します。

借入金の入金および返済の見込み額を算出します。

前月については、実績を入力します。
当月末は、前期実績に上記①~④の収支の合計を加えたものとなります。

 
2.在庫を常に管理する

(1)デッドストックを持たない

在庫を大量に持ち、いつまで経っても売れないとそれがいわゆる不良在庫として商品価値がなくなってしまう恐れもあります。これがデッドストックです。
デッドストックを持たないためには、計画的に仕入れを行い、適正在庫を保有することを心がけなければなりません。

もし、デッドストックが生じた場合には、早期に処分を行うことを検討するべきです。
在庫を持つことは、保管コストを負担することになります。バーゲンなどによる在庫処分を行うことで、多少なりとも資金の回収ができます。
また、どうしても販売できないものについては廃棄処分を行い、損失を計上することによって節税にもなります。

デッドストックを持たない

(2)安易な見込み仕入れを防止する

在庫が増える理由として最も大きな要因となるのは、需要予測の誤りです。仕入や製造計画の失敗もありますが、「格安」につられた大量仕入によるものは、「ムダ」の典型です。欠品を懸念して、つい無駄な仕入を行なったことなどよく聞かれます。

在庫を圧縮し、無駄な在庫は持たないという意識を持てば無駄な在庫は少なくなります。
また、売れない場合は思い切って処分することも必要です。在庫である以上、現金化はされないうえに、それを保管している倉庫代などのコストがかかるからです。

これを「損切り」といいます。そして売れ筋商品をいかに早く仕入を行なうかに注力しなければなりません。在庫が過剰かどうかについては、棚卸をして検討します。何ヶ月滞留しているかをみます。

実施棚卸は、全品目でなくとも主要な商品に限って実施すればよく、「今月はこの商品」という具合に循環式にしてもよいのです。

重要なのは、無駄な在庫の一層に主眼があることです。下記在庫表がその例です。

商品 合計 滞留1か月 滞留2か月 滞留3か月 滞留4か月
1,400 1,000 400 0 0
3,300 2,000 1,000 300 0
2,000 1,500 500 0 0

 
品目ごとに仕入、または製造後の経過月別に金額を記入して、何ヶ月滞留しているかがすぐに把握できるようにします。

そのためには、仕入時にいつ仕入を行ったかという記録を残しておくことが必要です。
上記例からは、商品Bに3ヶ月滞留しているものが300個あり、これらを早く販売しなければならないことがわかります。

また、その企業にとって、商品、材料の適正在庫量を定めることは効果的です。
適正在庫量を決める際には、以下のような点に留意します。

  1. 過去の出庫実績を基礎として、日々の出庫量を見積もる
  2. 過去の実績から発注してから入庫するまでの期間、自社製のものは製作期間を予測する
  3. 経済的な発注量、経済的製造ロットの大きさを算出する

(3)季節商品の仕入ポイント

在庫が増加しても、損益計算書の利益には直接影響がありません。しかし前述の通り、在庫の増加は資金化が遅れるために、資金繰りを悪化させ、企業経営にさまざまな弊害をもたらすことになります。

例えば、ある季節にしか売れない商品があると、その販売時期に合わせて該当商品の大量仕入を行なうケースがあります。

一般的には、季節商品を販売する場合には現金回収までの間に運転資金が不足することがあるので、金融機関から臨時運転資金(季節資金)を調達して資金繰りを賄うケースがあります。
この季節商品の仕入れは、見込みを立てるのが非常に難しく、また在庫を抱えてしまっても翌年まで売れないものがあると不良在庫化する可能性も高いことから、計画的に行なう必要があります。

【季節商品の仕入れのポイント】

  1. 見込みでなく過去の販売傾向に基づき仕入れを行なう
  2. 他の季節にも販売可能なものを仕入する
  3. 販売実績を見ながら段階的に仕入れを行なう

(4)実地棚卸を行なうこと

商品や製品の棚卸は、毎月実施することが望まれます。実施棚卸は、在庫担当者だけではなく、経理部門など他の部署の担当者にも協力してもらい、全社的に行 なうことが必要です。営業担当者だけでは、滞留在庫、不良在庫の正確な報告がない場合もあり、担当者としては、あまり報告をしたくないのが本音であるので、他の部署が棚卸に立ち会うなどの方法を取れば、過剰在庫、滞留在庫、不良在庫の実態が分かることもあります。

さらに、在庫の保有期間についても調査し、どの商品や製品がどのくらい在庫として長期滞留しているかに関して把握しておく必要があります。

長期在庫となったものについては、その原因を探り、対策を検討する必要があります。不良在庫となっているものが明らかになった場合には、早めの処分を行い、少しでも現金回収をしなければなりません。

在庫管理については、手書き一覧表のようなものは避け、データ管理として専用ソフトを活用することなどが望ましいといえます。これにより、必要な在庫情報をいつでも検索して取り出すことができるからです。

このデータ管理を導入し、自社の適正在庫を把握することができれば、今後無駄な仕入を行なうことが減少する可能性もあります。

【不良在庫をチェックするための棚卸の流れ】

不良在庫をチェックするための棚卸の流れ

在庫として確保すべき商品量を把握できたら、売れ筋商品に絞って仕入れを行なうことも可能になります。売れ筋以外の商品については、受注後仕入れを行うことで、無駄な在庫を持たなくなります。

また、在庫管理の手法にABC分析というものがあります。ABC分析とは、売上げの80%は全商品の20%から構成されており、在庫として全品目の20%を保有していれば、これで売上高の80%をカバーできるというものです。

売れ筋商品として保管しておくのは、この20%のみで良いとされます。さらに売れ筋商品は、適正在庫を決めておき、在庫不足や過剰在庫にならないように管理を十分に行う必要があります。

適正在庫を把握するためには、棚卸により在庫量を常に記録し、傾向分析などを行なっておくことが望まれます。

【20%の在庫で80%の売上をカバーできる】

20%の在庫で80%の売上をカバーできる

 
3.仕入債務の改善を実行

(1)支払条件の検討

売掛金を早い時期に回収すると資金繰りが容易になるということは、一方で買掛金を遅い時期に支払うことで資金繰りを好転させることも可能であると言えます。

買掛金の支払時期を遅くするには、最初の取引時における条件交渉が重要です。

条件交渉時に、弊社支払は月末締めで翌々月末支払となっていることを伝えれば、相手もその取引が重要であると判断した場合、取引開始のために当該条件を受け入れる可能性が高いといえます。

しかし、この条件交渉を取引開始後から行なう場合には、業績が悪化したために支払期間の延長を申し入れたという印象を与えてしまうことから、注意が必要です。

買掛金を手形支払に切り代える場合などは、支払期日を過ぎると不渡になり企業の信用を失って、最悪の場合には倒産を招く恐れもあることには注意を要します。

その他、具体的な支払条件の見直しについては以下のとおりです。

(1)仕入債務と資金繰りの関係

  1. 代金を回収してから支払を行なう
    売上代金を回収してから仕入代金や経費などを支払うことが望ましいといえます。買掛金の支払日や経費の支払日は、売掛金の回収日以降に設定します。手形取引であれば、受取手形の期日のあとに支払手形の期日が来るようにサイトを調整します。

    経費の支払は給料と家賃が大きなウエィトを占めており、売掛金の回収日の後にその支払を行なうと資金を効率的に活用することができます。

    【売掛金の回収後に給料、家賃を支払うイメージ】
    売掛金の回収後に給料、家賃を支払うイメージ

  2. 末日が過ぎてから仕入を行なう
    仕入取引には、締日と支払日があります。継続的な取引を行なう場合には、その都度決済するのではなく、ある一定の期間の取引をまとめて請求し、一定の期間を据え置いてから支払うのが普通です。
    最も多いのは、当月1日から末日までの取引をまとめて、翌月末に支払うパターンです。取引をまとめる一定期間の最後の日が締日であり、通常は月末が締日となります。
  3. 支払に裏書手形を使う
    売上代金は現金で回収するべきですが、手形で回収するケースもあります。この受取手形を裏書譲渡して、仕入先の代金支払に使う方法があります。

    裏書譲渡とは、受取手形を満期日まで保有しないで、仕入れた商品などの代金支払のために仕入先等に譲り渡すことをいいます。
    この際に、手形の裏面に譲渡を受ける相手の名前を記入して、譲渡する人が署名、押印することになっています。

    このことを手形の裏書といい、裏書した手形のことを裏書手形といいます。裏書手形を譲り渡すことが手形の裏書譲渡です。

    手形を裏書譲渡した場合、その代金は手形の振出人が譲受人に支払います。もし、その手形が不渡りになると、裏書譲渡した人は手形の所持人にその代金を支払 うことになっています。したがって、裏書手形を受け取った側にもその債権の安全性が高まり、メリットを得ることができます。

1-3. 使用していない固定資産は早期に処分する

1.遊休資産の早期整理で資金繰りを改善

本業以外の目的で取得した不動産、ゴルフ会員権、投資有価証券は今後も保有する必要があるのかを検討します。これらの資産は保有するだけでコストがかかります。
有効活用の見込みがあれば具体的活用方法を検討する、ないのであれば処分を検討することで資金繰り改善に役立てることができます。

遊休資産の早期整理で資金繰りを改善

2.新規設備投資と資金繰り改善

設備投資の失敗は資金繰りの悪化を引き起こす可能性が高く、借入金の増加や収益の低下をもたらします。企業にとって本当に必要な投資かどうかを、慎重に検討することが重要になります。 また自社所有にこだわることなく、貸店舗や貸事務所、リースなど、物件を賃借することも併せて検討すると良いでしょう。

店舗、工場、機械などの収益拡大の投資と
自社ビルなどの非収益物件の投資は分けて検討する。
非収益物件は特に慎重に行うこと。

 

  購入 賃貸



  • 長期間の使用ではトータルコストが安い
  • 社員のモチベーションアップ
  • 少額の資金で利用できる
  • 撤退しやすい




  • 多額の資金が必要
  • 撤退が容易でない
  • 長期間の使用ではトータルコストが高い

1-4. 既存借入金は金融機関と交渉し条件を見直す

1.借入金の見直しポイント

(1)会社の返済能力を超えた元金返済をチェック

  1. 4つの借入金を使い分ける
    銀行からの借入方法には、手形借入、証書借入、当座貸越、手形割引の4つの種類があります。それぞれの方法に特徴があるため、借入の目的に応じて自社にとって最も有利なものを選択する必要があります。

    銀行からの借入で一般的なのは、手形借入と証書借入です。手形借入は、銀行に借入額と同じ金額の手形を振り出して借り入れる方法です。借入日から返済日までの利息は、予め借入時に差し引かれて、その残額が実際に運用できる金額になります。

    手形借入は、期間が1年以内の短期資金の借入に利用されます。

    一方、証書借入は、銀行と金銭消費貸借契約書を取り交わすことにより借り入れる方法です。設備資金や長期運転資金などの1年を超える長期資金の借入に利用され、返済は元利均等もしくは元金均等で毎月返済するのが一般的です。

    また当座貸越は、銀行と当座貸越契約を交わして、当座預金の残高がゼロとなっても一定金額まで、資金が引き出せるようにして借り入れる方法です。当座貸越は、いつでも借入、返済ができるため、無駄な資金が滞留することも少ないというメリットがあります。

    そして手形割引は、受取手形を期日前に銀行に買い取ってもらうことで融資を受ける方法です。手形買取日から手形期日までの利息が融資日に引き落とされ差額が融資されます。手形割引では、手形を振り出した得意先がその代金を決済すると、自動的に返済されたことになります。

  2. 長期資金の借入で毎月の返済負担を楽にする
    借入金には、1年以内に返済する短期借入金と、1年を超えた長期間で返済する長期借入金があります。多くの企業では、借金を短期のものとして借り入れ、期日がきたら一旦返済し、また新たな短期資金を借入する「借り換え」を繰り返しています。長期借入よりも短期借入の方が金利は低く、借り換えによる短期借入金は、実質的に長期借入金としての性質をもっています。しかし、この短期借入金の借り換えには、資金繰りの上では問題があります。それは、銀行が常に借り換えに応じてもらえる保障がないからです。

    また、借り換えには、返済のために必要な資金を返済日に確保しておかなければならず、その返済負担が大きくなります。
    短期資金の手形などの借入数が多いと、その管理事務も負担となります。

    そこで、短期資金をまとめて長期借入金にまとめる方法が進められます。長期借入金にすることで、金利負担は増えますが、毎月の返済が平準化され、資金繰りが楽になる点や事務負担が軽減されるからです。

    長期借入金の利息負担をできるだけ低くするための方法としては、他の金融機関への借り換えや市場から調達する長期借入商品による借り入れを行なう方法が考えられます。

(2)設備資金借入の返済期間は適正か

設備資金の借入を行なう場合、効果が十分に見込めるのかという判断がまず必要となりますが、今後の自社にとって必要な事業投資であるならば、積極的に検討すべきでしょう。
ただし、その事業投資のために外部から借入金を調達する場合には、新規事業による回収予測を立ててから借入条件を詰める必要があります。

すなわち、新規事業による回収が見込める前から無理に返済期間を短くすると、返済原資の確保ができないからです。

(3)長期短期借入金のバランスを取る

  1. 金融機関別の取引の留意点
    銀行との取引に対して、借入金残高のバランスをとる必要があります。まず取引金融機関別の残高管理に注意をしなければなりません。
    企業にとって多くの金融機関との取引は、多様な調達手段が持てるため、金融機関とはバランスよく取引を行なう必要があります。

    特にメインバンクに対しては、どのような金融機関とどのような借入を行なっているのかなどの情報は正確に伝え、信用面を低下させないことが必要です。

    【金融機関別借入金残高管理例】
    ・金融機関別融資残高予想
    金融機関別融資残高予想

    ・返済計画
    返済計画

  2. 長短借入金のバランスを取る
    借入金については、その目的に応じて借入を行なうのが一般的です。
    運転資金であれば、基本的に1年以内の返済を原則とします。
    しかし、売上増加時など資金の安定が必要な場合には、長期運転資金の調達が必要な場合もあります。
    設備資金については、その設備投資による売上回収期間、回収能力を見極めて借入を行なうことが必要です。

2.借入金の金利、返済方法の交渉及び負債の圧縮

(1)金融機関に対する金利・返済条件交渉

金融機関に対して、借入金の返済条件の交渉を行います。まず月次返済額の減額、次に返済期間の繰延、つまり利息のみを支払い、元金返済を一時的に猶予してもらう方法もあります。いずれにしても、金融機関と交渉するにあたっては経営改善計画が必須となるため、種々のリストラも必要になります。

経営改善計画を立てるときのポイントは、次の4項目です。

  1. 金融機関からの借り入れは5~7年で返済するようにする
  2. 経費の削減計画を立てる
  3. 収入計画はできるだけ低く見積もる
  4. 設備投資はできるだけ抑える

(2)負債の圧縮による資金繰り改善

負債の圧縮のためには、資産の処分等で現金化し借入金を返済していきます。
また、借入金の担保となっている定期預金があれば、定期預金を解約して借入金を返済することも金融機関と交渉すべきです。もちろん、金融機関との関係を考慮しながら実施しなければなりません。一方的に実施すると信頼関係が破綻してしまい、今後の融資にも影響が出る可能性もありますので注意が必要です。

また、負債の中に役員からの借入金がある場合は、資本金に振り替えてしまう方法があります。これにより、資本の充実と負債の圧縮の両方に効果があります。また、債権放棄をしてもらい、特別利益として計上することも選択肢の一つですが、利益が出ている年度にこれを実施すると、税金が発生してしまい余分なキャッシュアウトとなってしまいますので、当該年度で欠損が出る場合(たとえば資産の処分で売却損が出ている、在庫の廃棄に伴う損失が出ている場合など)や、繰越欠損がある場合にはこの方法が有効です。

自社の状況に応じて判断することが重要です。

2. 資金調達力を高めるポイント

2-1. 金融機関とうまく付き合い信用力を高める

1.金融機関の種類

(1)広告宣伝費のコストパフォーマンスを検討する

中小企業が最も重視する資金調達手段としては、約70%の企業が金融機関からの借入と回答しています(H20/8帝国データバンク公表資料)。内部資金の活用や社債などの直接金融を行っている企業もありますが、多くの中小企業においては金融機関からの借入が重視されているのが現状です。
そこで、中小企業に融資を行う金融機関の企業審査の方法等について解説します。
中小企業に融資をする金融機関を大別すると、民間金融機関と政府系金融機関の2種類があります。両方の金融機関をうまく活用することで、企業の資金調達力を確保することが重要です。

  1. 中小企業に融資を行う金融機関
    中小企業に融資を行う金融機関
  2. 民間金融機関と政府系金融機関の特長
     

    民間金融機関
    金融機関名 特長
    都市銀行(メガバンク) 業界リーダー、融資額が大きい、
    融資商品が豊富、地方では支店が少ない
    地方銀行 地域密着金融機関
    信用金庫 都銀、地銀に比べ地域密着、非財務面にも重点を置く
    民間金融機関
    金融機関名 前身 特長
    日本政策金融公庫 中小公庫、国民生活金融公庫、農林漁業公庫、国際協力銀行が統合 銀行、信金に比べ融資が受けやすい
    創業資金融資が特長的
    (株)商工組合中央金庫 旧商工中金 普通銀行と同じ機能を持つ

2.金融機関の審査ポイント

(1)民間金融機関の審査項目

①資金使途 運転資金・設備資金
②金利 収益を確保できるか
③融資期間 適正な期間か、設備資金であれば償却の期間内か
④返済方法・返済財源 返済計画は妥当か
⑤担保 評価、換金性に問題ないか
⑥保証人 保証能力があるか
⑦総融資額 過剰融資になっていないか
⑧計画の妥当性 事業計画、設備計画は妥当か
試算表 業績推移は問題ないか
決算書 財務分析内容に問題ないか
預貸銀行取引状況 他行動向に変化がないか
⑫経営者の資質 経営者としての資質
⑬事業活動の実態 経営実態があるか
⑭業界動向 業界特性、競争力
⑮格付け 金融審査マニュアルに基づく

 
上記のうち①~⑨においては、融資の申込みの都度、審査を行っています。
このうち計画的に取組むことにより、改善可能なものが⑨~⑪です。

・試算表 ・・・ 業績推移は問題ないか
・決算書 ・・・ 財務分析内容に問題ないか
・預貸銀行取引状況 ・・・ 他行動向に変化がないか

 
(2)金融機関の財務分析の主なもの

金融機関の財務分析の主なもの

3.金融機関との付き合い方・・・10のポイント

(1)複数行取引をする

創業間もない会社または小規模な会社であれば、1つの金融機関との取引でも特に支障は生じないと思われますが、ある程度の規模になると1つの金融機関だけの取引は融資を断られると窮地に追い込まれるリスクがあります。少なくとも2つ以上の金融機関と取引を行い、リスクを分散しておく必要があります。
また金融機関側も、自行の経営状態や経済環境によっては融資ができない場合もあり、一行取引は望んでいません。

(2)抽象的表現はせず、数字で具体的に説明する

融資を受ける会社の社長が、営業、財務総てに精通しているのが理想形ではありますが、社長が財務にあまり精通していない場合は、財務のわかる経営幹部などを同席して会社業績、事業計画、借入の申込理由、返済計画は数字を使って具体的に説明するようにします。情緒的な話では、金融機関は首を縦に振りません。

(3)営業資金の入出金はメインバンクを中心に行う

給与振込、公共料金決済、ネットバンキング、クレジットカードなど
負担にならないものは付き合う ⇒ ギブ&テイク

(4)公的融資を使う、普段から調査しておく

公的融資は国や地方自治体が中小企業に資金支援するために、民間の金融機関よりも有利な条件で融資を受けられる制度を備えています。また返済不要の助成金なども準備されていますので、自治体などのHPで確認することをお薦めします。

(5)信用保証協会を利用する

平成19年10月から信用保証協会の保証制度が大きく変わりました。従来は融資額の100%を保証していましたが、現在は融資額の80%までを保証金額としています。
このことは、金融機関側にしてみると、保証協会の保障があれば安心して融資できた案件が、20%のリスクを保全できなければ容易に融資できなくなったことになります。
一方、企業側からは、20%に相当する金額の担保が減ったと考えることができます。

(6)株式公開を目指さないなら、中小企業のほうが有利

株式公開を考えていない場合には、公的融資や助成金を活用できる中小企業のままでいる方が有利なことが多いといえます。

(7)決算終了後、社長または経営幹部がなるべく早く説明に出向く

決算書は、銀行から催促を受ける前に、社長または経営幹部が説明報告のために出向くことが必要です。

(8)年度計画、中期計画を作って金融機関に開示する

年度計画、中期計画書を作成しているのであれば、金融機関に開示をして理解しておいてもらうほうが、今後の資金調達がスムーズに行くケースが多くなっています。

(9)金利の折衝は最後に行い、実効金利を押さえておく

金利の折衝は、最後に行います。利率は、企業各付け基準に基づいていることから、無理な折衝は時間の無駄です。
しかし、実効金利を押さえて折衝すれば、多少の引下げ余地は生じると思われます。

(10)社長の資産は全て公開しない

中小企業の場合、金融機関からは必ず社長の個人保証を求められます。
この際には、社長が有する個人資産負債を聴取されますが、この情報は万一の際の参考情報であるため総てを公開する必要はありません。

2-2. 新たな融資方法を検討する

1.ビジネスローン

ビジネスローンとは、中小企業者や個人事業者を対象に事業資金を融資する形態です。
取扱は大きく分類して、①銀行系のビジネスローン、②ノンバンク系のビジネスローンの2つがあります。担保や保証人の面で条件が一般の融資に比べると、緩やかであり比較的小規模の事業者においては利用しやすい融資商品です。

取扱金融機関 銀行、信金およびノンバンク
融資対象先 開業2年~3年以上の中小企業、個人事業者
担保 不要
保証 不要、法人の場合は代表者の保証が必要
審査スピード 申込から2~3日
融資金額 概ね100万円~5,000万円
返済期間 1カ月~5年
返済方法 期日一括または分割返済
金利 ノンバンクの方が一般的に高い

 
2.流動資産担保融資保証制度

売掛債権や棚卸資産を担保とした借入について、保証協会の信用保証を付して資金調達する方法です。
従来は担保になりにくかった流動資産を担保としてくれることが特徴です。

流動資産担保融資保証制度

3.シンジケートローン

シンジケートローンとは、まとまった資金を複数の金融機関から個別に借入することなく金融機関による融資団から同一条件で資金を調達する方法です。
一般的に、中堅企業以上が融資対象になりますが、企業側は財務の効率化が図れること、また金融機関側は取引拡大、リスク分散できるなどのメリットがあることなどから双方に効果が期待でき、近年拡大傾向にあります。

(1)シンジケートローンのメリット

  1. まとまった大口の資金を複数の金融機関から同一条件で調達できる
  2. 金融機関の窓口は一本化されるので、他金融機関との個別の交渉や手続きが不要
  3. 中堅企業上の信用力の高い企業が対象になるので、対外的に信用力が高まる

シンジケートローン

  • ・アレンジャー:金融機関の組成、企業との借入条件交渉などを行う
  • ・エージェント:借入契約条件管理、シンジケートローン期間中の企業側の窓口
  • ※通常は、アレンジャーとエージェントは同一金融機関になることが多い

2-3. 金融機関に頼らない資金調達方法を確立する

1.少人数私募債

少人数私募債とは社債の一種ですが、担保および保証人が不要で、金利や返済期間を自社で決めることができる資金調達方法です。一般の社債と違うところは、会社あるいは社長との間に信頼関係を構築できる人が購入者になるところです。
したがって、中小企業向けの縁故私募債であるといえます。

(1)少人数私募債の発行条件

①法人であること 株式会社他、特例有限会社なども可能
②社債の購入者 50人未満であること
③1口の社債の額 発行総額の50分の1未満
④募集総額 5億円未満
⑤購入者 縁故関係者
⑥その他 機関投資家は購入者になれない

 
(2)少人数私募債のメリット

  1. 担保および保証人が不要
    ⇒ 通常の社債は信用力に応じて担保、保証人が必要であるが、縁故者に引き受けて
      もらうため無担保、無保証が可能
  2. 長期一括返済ができるため資金繰りが安定する
  3. 購入者との信頼関係が構築できる
  4. 従業員に引き受けてもらえばモチベーションアップにつながる
  5. 発行が簡単
  6. 取締役会の決議で発行できる、社債権者に決算書類の開示義務はない
    ⇒ 会社を知ってもらうために決算書類や事業計画を開示すべき
  7. 利息は後払い、また損金になる
  8. 発行費用がかからない
  9. 無担保で発行できるため登記費用などが不要
  10. 金融機関や取引先の評価が上がる、協力者がいるという信用力のアップにつながる

 
1.特定社債保証制度

少人数私募債は金額上限が50百万円と社債としては小口であること、また一般の私募債の場合、信用および担保の面から中小企業では発行のハードルが高いという問題があります。
したがって、平成12年国が中小企業の社債発行による資金調達を促進するため、新たに特定社債保証制度を創設しました。資金調達における公開企業へのステップとして活用が期待できます。

(1)制度の概要

信用保証協会の保証が条件

  1. 特定社債保証制度の内容
     

    保証の対象 法人
    保証形態 金融機関と保証協会の共同保証
    発行額 3,000万円~5億円
    使途 事業資金
    社債の期間 2年~7年の1年単位
    担保 原則として発行額が2億3千万円を超過する場合に必要
    保証人 不要
    その他 引受金融機関の手数料が必要
  2. 適債基準
     

    項 目 基準1 基準2 基準3 充足要件
    純資産額 1億円以上
    3億円未満
    3億円以上
    5億円未満
    5億円以上 必須要件
    自己資本比率 20%以上 同左 15%以上 1つ以上充足
    純資産倍率 2.0倍以上 1.5倍以上 同左
    使用総資本事業利益率 10%以上 同左 5%以上 1つ以上充足
    インタレスト・カバレッジ・レシオ 2.0倍以上 1.0倍以上 同左
    • 純資産倍率 = 資本の額/資本金
    • 使用総資本事業利益率 = (営業利益+受取利息+受取配当金)/ 資産の額×100
    • インタレスト・カバレッジ・レシオ=(営業利益+受取利息+受取配当金)/(支払利息+割引料)
  3. リースの活用

    設備資金においては、リースを利用することで資金不足を解消する方法があります。
    リースは必要とする設備をリース会社から賃借し、賃借料を払うことになります。
    また、長期借入金で設備を調達した場合、設備を利用しながら元利金を返済することになるので、リースと同じ効果があります。どちらも分割払いになりますが、それぞれメリットおよびデメリットがあるため、企業の状況に応じて検討することが必要です。

    シンジケートローンのメリット

      リース 購入(借入を含む)
    所有権 リース会社 自己所有
    支払額 購入より多くなる リースより少ない
    解約 残リース料を一括払する 資産の売却が可能
    審査 銀行借入より簡略 リースより厳格
    経理処理 リース料は損金になる 減価償却費、利息が損金になる
  4. 中小企業投資育成会社

    中小企業投資育成会社は、中小企業の自己資本を充実し、健全な成長発展を図るため設立された機関で、公的ベンチャーキャピタルの機能を提供しています。
     

    • 投資会社のサービス
      1. 株式の引受 増資、株主構成の是正
      2. 新株予約権付社債の引受

      など、自己資本の充実を図りたい際に大きな機能を果たしてくれます。

    • 投資育成会社を利用できる企業
      資本金3億円以下の株式会社であり、業種は問いません。
      また、安定的に配当可能な利益を計上していることが必要です。
    • 利用のメリット
      1. 対外的な信用の向上
      2. 長期安定資金の調達
      3. 株式公開支援
      4. 経営相談、ビジネスマッチング
    • 連絡先
      東京都渋谷区渋谷3-29-22 投資育成ビル
      TEL 03-5469-1811

     

  5. 増資 ~ 従業員持株会の活用

    増資の方法として、従業員持株会の活用があります。この方法は、オーナーの相続対策のほか、従業員のモチベーションアップにも有効です。
    このような特長から、持株会は相続対策の制度ととらえられがちですが、持株会に第三者割当増資を行うことによって資金調達が可能になります。

    第三者割当増資に際しての留意ポイント
    「オーナーの支配力が維持できること」

    (1)持株比率50%以上の維持

    • 株主総会の通常決議に必要な割合
    • 決算書類の承認
    • 取締役、監査役などの役員選任決議の行使ができる

    (2)議決権2/3以上の維持

    • 株主総会の特別決議に必要な割合
    • 定款変更
    • 営業譲渡
    • 合併などの決議ができる
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